ステンレス鍋について

確かめようのない事だけど「ステンレス鍋」について、日本で一番沢山デザインしたのではないかと思っている。でも、きっと最後化の知れないなぁとも思っているのがFD STYLEのステンレス鍋である。


金型に関して言えば、新規に作ってはいないし、フリーになって最初にデザインした貝印の「ミシェフ」(1992)やヨシカワの「パワークックパル」(1996)とは全く違う背景で作った鍋になる。現在において新潟県燕市であっても新しいステンレスの鍋をつくるという事はかなり難しい事です。ステンレス鍋に関しては通常、14、16、18、20、22、24センチが一つのシリーズとして商品化するのが普通です。でもFD STYLEのステンレス鍋は通常で言う20センチ深型というサイズのみで商品化しています。そして予定より2か月遅れで18センチが完成します。商品としては20センチの黒と白、18センチの黒と白が揃って4種類という事になります。ここまでに2年かかりました。


最近は過去において気にしなかった事に気を付けながらものづくりを行っていて、塗装の焼き付け温度で表面の硬度と色の再現性を試したり、有機溶剤を使わない洗浄方法を試したりしていて、商品の発表と商品化に予想をはるかに超える時間が掛かっています。もちろん予算の制限から掛けられるマンパワーの制約があるのも事実です。以前は図面を渡せば試作品が出来てきて黙っていても商品になり「どこかで」売られていました。そして数年すると自然と廃版になりました。もちろん経緯に関わってもいません。そうした事はデザイナーの仕事とも考えていませんでした。


FD STYLEのステンレス鍋には製造するフジノスが20年保証を付けています。私達の業界では良い鍋にはどれでも同様の保証がついています。20年は業界では最長だそうです。正しい使い方をする限り鍋はそう簡単に修理が必要にはなりません。実際に修理を頼むケースはフッ素加工をしているフライパンを除けば多くはありません。保証がついてる事を覚えていなかったり、メーカーを意識して売られている製品が少ないからだと考えています。私達のFD STYLEが認知されて、不具合が出た時に思い出してもらえれば保障の意味があると思うし、そうなる為に活動していかなくてはならないと考えています。


今回の鍋で限られた範囲ですが取組んでいる事が、有機溶剤を使わない洗浄方法です。新潟県燕市はステンレス加工の産地で「研磨加工」で知られています。研磨した後、洗浄という工程が必ずあります。この時用いられている一般的な洗浄方法は世界のスタンダードから乖離した方法です。仕方のない面もあって簡単に変える事は難しいのですが、誰かが挑戦するべきだと考えて来ました。本当は行政が何かしら取り組むべきだと思うし、県の関係施設にも相談しましたが、認識に違いがあり期待できそうにはありませんでした。


フジノスが用意してくれた超音波洗浄を試していて一定の成果を上げています。これは50℃に熱した石鹸水と超音波洗浄機を組み合わせて洗浄した後、水洗いし乾燥させています。一つ一つの工程が手作業で、50℃のお湯は熱いし、超音波独特の金属音はかなり大変な作業です。こうした苦労はステンレスに塗装する事に由来するわけですが環境に負荷をかけないグローバルスタンダードな取り組みとして今後の商品開発に生かされると考えています。

およそ10年前なら関わる事も知る事も無かったものづくりに、プロダクトデザイナーとして関わっていられる事は、今の自分が見つけられた自分だけのデザイナーとしての在り方だと考えています。

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