湯たんぽ10年目を迎えました。
思い返せば10年前の2014年にGood Design賞を受賞したFD STYLEの湯たんぽ。ロットで製造し自分で在庫する製品は初めてで随分慎重になったことを思い出す。F/styleにも相談してある意味背中を押してもらって決断したことを覚えている。そんなこんなで発売したら好評で欠品させてしまったことも覚えている。全ては経験であって挑戦しなくては成長にはつながらない。
この時初めて繊維産業と関わった。新潟県の繊維産業の歴史は古く、洋服が一般的に広まる以前の着物の時代にも大きな織物産地として栄え、それが洋服に変わりニット産業に変わりながら発展してきました。けれど私自身はそうしてことを身近に感じることはなく、湯たんぽのカバーをニットで作ろうと考えるまで全く深く考えたことがありませんでした。
織物もニットも時代の変化の中で発展し、近年は急激に縮小している産業です。関係する人の話を聞けば聞くほど以前の華々しい時代から急速な衰退の話。話を聞く分にはとても面白いのだけれど、その地で暮らす人の生活の変化や衰退を感じる街並み等、新潟県全体を考えると何かデザイナーとしてできることはないかと考えてしまう。
10年前に最初のカバーをつくった工場は5年目の2019年に突然メールで廃業を伝えてきました。9月の末頃でもうすでに受注を受けており困ったことを覚えている。もちろん工場はそれ以上に大変であったのだろう。2021年には糸を製造するニットーボー新潟の工場が稼働停止となった。こうした事実に直面するたび、私たちは製品を作り続ける事の難しさを感じました。
最初にニット工場が廃業した時、商品を続けるために同じ五泉市にある工場に相談しました。前の工場と親戚関係であることもあって、快く協力をしてもらえました。同じゲージの編機がなく近いゲージの機械で調整してほぼ再現することができました。納期も最小限の遅れで済ませ、コストは私たちが吸収しました。
翌シーズンは早くから活動しました。コストと意匠的な問題があったからです。これまで5シーズンの製造を通じて少し知識は増えました。新潟県内のニット産業の中心は女性の洋服でありニットソーとも呼ばれるニットとソーイングを合わせて作る作り方が中心です。ニットにはホールガーメントと呼ばれる一体型で編める機会があり、小物用のホールガーメットであれば縫製を最小限でカバーが作れるのでホールガーメントの工場を探しました。従来のカバーがダメというわけではなく、工場を変えるのであればその工場の得意を活かしたいと考えるからです。
スタッフの一人が縮絨という加工を提案し、見附の整理工場にお邪魔して色々教えてもらいました。ニットは伸縮性があるので湯たんぽの金属面と肌が直接触れることな無いようにしなかればならず、縮絨加工をすることで目が詰まりそれが防げることや厚みが増したように感じられ肌触りも良くなる。一方で縮絨加工はウールにしかできない。コットンの風合いが好きなので悩みましたがウールのカバーを作りました。
FD STYLEとしてのキッチンウエアと生活雑貨である湯たんぽを同じく考える必要はないのだろうか。もともと、湯たんぽはキッチンウエアと少し距離を取って考えていて、ロゴも変えていました。本体の刻印はいまだに当時のままです。
そうして迎えた2024年のシーズンは10周年ということもあって、五泉の工場で初期のカバーに近づけたカバーを作りました。この10年で益々職人の仕事が減っていることからできるだけそうして技術を使ってカバーを作りたいと考えたからです。新潟県内には多くの縫製の技術者がいます。私たちの仕事などちっぽけではあるけれど、少しでもそうして人と仕事がしたいと思ったからです。ホールガーメントは素晴らしい機械ではあるけれど、今の私たちは人の手による作品をつくりたと考えたからです。コストも考えてホールガーメントを試しましたが、それでも毎年値上げでした。私たちも吸収しきれず、9,000円(税別)だった湯たんぽは2回値上げして11,000円(税別)になりました。ステンレスの本体は10年で1度の値上げです。カバーは前半の5年で2度、デザインや素材を変えた後半で4度の値上げです。値上げ自体は仕方ないことですが、競争力という点で普通に考えると国内産業の厳しさを感じました。だからこそFD STYLEとしてはあえて人の手による製造に戻したということです。
初期のデザインと変えたところは、カバーの口の部分につけていたヒダを無くしました。これは就寝時に布団の中で使うとその部分が温まらず、ホールガーメントのカバー形状の方が良いと判断しました。この部分はそもそも口が紐で縛っても完全に塞がらないだろうから、金属が肌に触れるのではないか、という考えでつけたものです。実際には紐で絞ることで、湯たんぽ本体と口の間には一定上の距離ができることがわかっていました。
そうして完成したのが、今年のモデルです。湯たんぽ本体はこの間一切の変更はありません。そうそうFD STYLE湯たんぽを愛用してくださる方にお知らせしていことは、本体のパッキンを紛失する方がおられるということです。使っていても見えないので気がつきにくいですが、キャップの内側にOリングと呼ばれるパッキンがついています。普段はキャップにはまっていて目にすることはありませんが、何かの拍子に本体にくっつていて取れてしまったことに気が付かずに水が漏れるという方がおられます。この場合は新たにパッキンを購入していただきフタの中に入れれば問題なく使えます。このパッキンはあまり交換の必要もありません。安価ですので交換しても良いとは思いますが、私自身も10年以上交換していません。
これからもFD STYLE 湯たんぽは販売を続けてまいります。
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