「廃盤」ー商品が終わる事について。

プロダクトデザイナーと言う職業で沢山の製品を作ってきた。始まりがあれば終わりがあるのだけれど、通常デザイナーには廃盤は縁がない。FDSTYLEでキッチンツールと並んで最初からあるアイテムが「花はさみ」。2009年のGoodDesign賞に選定されているので12年位販売してきた。この製品が今回廃盤となる。


今でも良く覚えている。面識の無い東京の自由が丘フラワーズの横山社長から、オリジナルで園芸ハサミを創るのだけれど工場が新潟のなのデザインをして欲しい。という電話をいただいた。その時に初めて紹介されたのが、株式会社カバサワの社長と専務である。マイク真木の様に白髪を後ろで束ねた社長と奥さんで長岡弁で話す専務。お邪魔するときは何時も2人で迎えてくれた。昨年の6月頃に社長(この時点ではすでに会長)が完全に引退し、自ら準備した施設に移りもはや工場にも来ないとのこと。

はさみと呼んでいるけれど、金属の刃で挟む構造ではない。外国製「アンビル」と呼ばれる似た構造の物があるけれどそれとも違う。FISKERのバラ切りが似ているけれど厳密には違う。刃の構造が両刃であるからだ。薄い刃の場合木のを切るときに片刃つけだと力が中央に集中せず捻れる。薄い刃であるので捻れは力のロスでしかない。刃が薄いと長切れしないのでは?と考える人もいるだろう。写真のように刃の先端を「鈍角」にする二段刃であるので厚い刃と変わらない。問題は刃が厚くなることで木を切るときに木の繊維を押し分けて進むことができずに必要以上に力が必要だということ。木を如何にして切りか?ということ関してカバサワの社長は本当によく研究されていた。安来鋼やスエーデン鋼の事も社長から教えてもらった。



鍛治仕事だけにとどまらず、この鋏を作るために縦型の成型機も導入したし、ガラス繊維で強化する成型も一緒に勉強させてもらった。替え刃式のはさみを作りたいという考えは道半ばではあったけれど、流通も含めて僕らの力不足も感じることとなった。でも、本当に木を切るということについて多く学ぶことができた。もちろん調理器においても応用できる考え方と知識になった。


数年前から準備をしてキッパリと決断した引き際は見事というしかない。息子の新社長のもと新しい方針で当面はノコギリに専念していく方針との事ではさみの製造は修了するとの事でした。もちろん、継続して生産してくれるよう交渉はしたものの前社長の「新しいことを思い切ってやれ」というメッセージの様に感じていて尊重したい気持ちがまさった。


時間は進んでいき、変化しないモノはない。新しいものを生み出す責任と、消えていくものもある儚さを感じる。正に春の夜の夢の如し。いくら素晴らしいものを作り出せたとしてもそれは永遠では無い。だからこそ、続けることしか無いのだろう。


「未だ沢山教えて欲しいことがあったのに」とカバサワの専務に話すと、「今度はあんたが他の人に教える番だ。」と言われました。本当にそうだ。花はさみについては在庫限りとなりますが、もっと新しい道具をデザインして行きたい。


取り扱っていただいてるお店に廃盤の連絡をしたところ、想定していたより多くの注文をいただいてしまった。既に製造が終わっているので、在庫があるだけになるのでうちのショップでは暫く販売出来るだろうと考えていたが少し厳しそうだ。メンテナンス用の替え刃もストックしておかなければ。


FD STYLE花はさみ

在庫限りではありますがプレゼントにもどうぞ。

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