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ウオーキングが変えた生活習慣と意識

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私が夕食後のウオーキングを始めたのは、3年ほど前のことです。きっかけは痛風の症状でした。生活習慣を見直す必要を感じ、まずは歩くことから始めました。 それまでの私は、1日の歩数が3,000歩に届かない日も多く、ひどい時には2,000歩以下ということもありました。出張で東京に行くと、帰りには足が重く疲れを感じたものです。 それが今では、夕食後に1時間歩くのが習慣になり、青信号が点滅すれば迷わず駆け出せるくらい体が軽くなりました。体型にも変化が表れ、周囲から「痩せたね」と言われることも増えました。体重自体はある程度で下げ止まりましたが、体の感覚は明らかに変わったと感じます。 考える時間をくれるウオーキング もうひとつの効果は、歩きながら聴くPodcastです。他の人の考えに耳を傾ける時間を持てるようになり、「運動」「食事」「睡眠」といった生活の質について、意識が高まってきました。 例えば朝食では、必ず野菜を取るようにしています。その時に使う穀物酢の原材料が「米、小麦、トウモロコシ、酒粕」なのか「米、酒粕」だけなのか――そんな細かい違いにも目が向くようになりました。 食材の背景に関心が広がると、外食の回数も自然と減ります。必要な栄養を考えれば肉より魚にしよう、脂質はどの程度が良いのか、と選択が変わっていきます。外食の席でも、美食への興味は以前ほど強くなくなりました。 結局のところ、「何を食べるか」が「どう生きるか」につながるのだと思います。 燕三条の調理器具に込める意味 こうして日々の暮らしの中で気づいたのは、食べることと生き方の関係です。そう考えると、私たちが燕三条でつくる調理器具にも、単なる「道具」以上の意味を持たせられるのではないかと感じています。 日々の食事に向き合う時間を、少しでも豊かにする。そうした視点で、これからもものづくりに関わっていきたいと思います。

SCAJ2025出展「コーヒーで染めたペン」

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金属を大きく分けると、「鉄」と「非鉄」に分類されます。日本の金属加工の多くは「鉄」に関わる産業ですね。ステンレスも鉄の合金ですし、私たちが扱う燕三条の鍛冶屋も主に鉄を扱っています。 鉄は、硬いのに脆くないという面白い性質を持っています。ガラスは非常に硬いですが、衝撃が加わると割れてしまいますよね。柔軟な物質は柔らかいのが一般的ですが、鉄は硬さと粘り強さを併せ持っているんです。 では、「非鉄金属」はどうでしょう。私たちの身近にあるものだと、銅やアルミニウムが代表的です。特にアルミニウムは、軽くて加工しやすいため、様々な製品に使われています。 アルミニウムは鉄のように赤く錆びることはありませんが、白い粉状の酸化被膜ができる「錆び」は発生します。この錆びを防ぎ、耐久性を高めるための加工が「アルマイト加工」です。調理器具や食器には、安全性の観点からも欠かせません。 アルマイト加工は、アルミニウムの表面を電気分解によって人工的に酸化させ、硬い膜をつくる技術です。この膜には目には見えないほど小さな穴(微細孔)がたくさん開いています。この穴に染料を浸透させて着色するのが「カラーアルマイト」です。 この微細孔に染料を浸透させる際、化学染料ではなく、天然のものが使えないか? そんな発想から、私自身の新たな探求が始まりました。 目指したのは「黒」。そして、調理器具にも応用できるよう、安全性も考慮して「コーヒー」で染めてみることにしたのです。以前、デザインした「金属の塊から削り出したペン」がちょうどアルミニウム製だったので、まずはこのペンで試してみました。 化学染料ではきれいに黒く染まりますが、コーヒーでは狙ったような深い黒にはなりませんでした。 アルミニウムだからといって、何でもアルマイト加工ができるわけではありません。鋳造されたものは加工が難しく、純度の高いものが適しています。改めて「微細孔に染料を浸透させるだけで黒く見える」化学染料のすごさを感じました。衣類を炭で染める「墨染め」も、完璧な黒に染めるのは難しいと聞きます。 今回のSCAJ出展では、この**「コーヒーで染めたアルミペン」**を展示・販売します。完璧な黒にはならなかったけれど、一言では言い表せない、独特のニュアンスを持つ色に染まりました。 ぜひ、この探求のプロセスと、その結果生ま...

SCAJ2025に出展します ― 会場限定パッケージの実験

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私たちFD STYLEは、SCAJ2025に出展します。コーヒーの展示会に参加するのは、昨年に続いて2回目となります。今回は、会場限定で試してみたいことがあり、現在準備を進めています。それはワイスケドリッパーの会場限定パッケージです。 パッケージの悩み FD STYLEのように小規模で展開するブランドにとって、パッケージは悩みの種です。一般的な印刷パッケージはある程度の数量を前提に効率が成り立つため、製品の生産規模と合いません。とはいえ、パッケージは製品の価値を伝える大切な要素です。 ワイスケドリッパーと黒染めの特性 今回の対象となるワイスケドリッパーは、ステンレスを「黒染め」した仕様を採用しています。ただし、ステンレスの黒染めは一般的ではなく、量産品には向きません。理由はTIG溶接による組み立ての際に高温で材質が変化し、染まりにムラが生じるからです。 ムラを目立たなくする方法もありますが、コストが上がってしまいます。そこで、私たちはあえてムラをそのまま受け入れることにしました。工業製品でありながら工芸品のような「個体差」を楽しめるデザインとしたのです。その代わり、通常のステンレス素地バージョンとの価格差はつけず、選ぶ楽しみを残しています。 従来パッケージの限界 この思想を反映するため、これまでは全体を覆わないスリーブ型のパッケージを採用してきました。外観の個体差を確認できる一方で、丈夫さに欠け、移動の際に傷みやすいという課題がありました。完全な箱にすれば保護はできますが、それでは「個体差を見て選ぶ」という楽しみが失われます。 3Dプリンターで作る会場限定パッケージ そこで今回、3Dプリンターでパッケージを作る実験を試みました。外観をそのまま確認でき、蓋を外せば内側も見える構造です。必要な数量だけを作れるため、小規模生産との相性も良いと考えています。 使用する素材は植物由来のPLA(ポリ乳酸)樹脂。環境負荷も最小限で、展示会という「場」にふさわしい試みになると感じています。 所有する一つを選ぶ体験 この限定パッケージは、決して高価な製品ではありません。ただ、目の前にある個体を自分の目で選び、所有するという体験を提供できるのではないかと思っています。もちろん、従来のパッケージも並行して販売します。 どのような反応...

湯たんぽ開発秘話、燕三条と五泉をつなぐものづくり

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なぜ、いま湯たんぽをつくるのか 「昔ながらの道具を、現代の暮らしに合うかたちに」。このFD STYLEの思想は、湯たんぽにも通じています。 一般的な湯たんぽは、安価な亜鉛メッキ鋼板でつくられているものが多く、シーズンオフに手入れを怠るとすぐにサビてしまいます。結局、数年で買い替えることになり、その度にゴミが増えてしまう。 そこで私たちは、この湯たんぽを、本当に長く使ってもらえるものにしたいと考えました。素材に選んだのは、丈夫でサビに強い**ステンレス(SUS304)**です。正しい使い方をすれば、パッキン交換だけで何十年も使える。そうすることで、消費を抑え、環境にも配慮できる。道具としての本質的な価値を高めることにこだわりました。 現代の暮らしに寄り添うサイズ 容量にも、こだわりの理由があります。昔ながらの湯たんぽは、1リットル以上の容量が主流でした。お湯を沸かすための「やかん」も2〜2.5Lが普通でした。しかし、現代の暮らしでは、電気ケトルやポットで500〜800mlのお湯を沸かすのが一般的です。 この日常の動線に合わせることで、湯たんぽを使うことが特別なことではなく、無理なく続けられる習慣になる。FD STYLEの湯たんぽが600ccというコンパクトなサイズになったのは、そうした理由からです。 金属と繊維、異なる産地をつなぐデザイン そして、この湯たんぽを語る上で欠かせないのが、カバーです。 新潟県には、世界に誇るふたつの産業があります。ひとつは燕三条の金属加工。もうひとつは、五泉のニット産業です。どちらも日本のものづくりを支えてきた歴史と技術があるにも関わらず、それぞれの市場が確立されているため、隣り合った地域で協業することはほとんどありませんでした。 この異なる産地の魅力をひとつの製品に集め、新たな価値を生み出すこと。それが、デザイナーである私の役割だと考えています。 金属の堅牢さと、ニットの柔らかさ。相反するふたつの素材がひとつになることで、温かさだけでなく、心地よさも兼ね備えた製品になりました。 湯たんぽ本体は、ひとつひとつ職人の手作業で仕上げられます。そして、その本体に合わせるカバーも、職人の手で丁寧に編まれています。私たちの湯たんぽは、燕三条と五泉の職人技が詰まった、まさに新潟のものづくりの結晶なのです。...

車中泊と湯たんぽ、暮らしに寄り添う道具たち

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まだまだ日中は汗ばむ陽気が続いていますが、朝晩の風に少しずつ秋の気配を感じるようになりました。 この夏、高速道路のサービスエリアや道の駅、大きな観光施設の駐車場で、ずいぶん多くの車中泊の車を見かけました。長期休暇には、あちこちでずらりと車が並び、新潟市内の観光地でも、県外ナンバーのキャンピングカーやワゴン車を目にすることが多くなりました。自由に旅するスタイルが、当たり前になりつつあるのかもしれません。 秋が深まり、冬が訪れると、旅の頼もしい相棒である車の中もぐっと冷え込みます。そんな時に考えたいのが、暖かさとの付き合い方です。電気やガソリンを気にすることなく、温もりを確保する方法はないだろうか。 そこで改めて注目したいのが、昔ながらの道具である湯たんぽです。 電気を使わず、お湯を沸かすだけ。シンプルな仕組みですが、小さな空間だからこそ、その「じんわりとした温かさ」が、冷えきった身体に大きな安心感を与えてくれます。 FD STYLEの湯たんぽは、600ccのお湯で使えるコンパクトなサイズ。場所を取らず、キャンプ用の小さなバーナーや電気ケトルでも手軽に準備できるのが利点です。素材はステンレスなので頑丈で、少しぶつけても変形しません。就寝時に寝袋に入れても、助手席で膝に乗せても、気兼ねなく使えます。 湯たんぽに欠かせないのが、カバーです。FD STYLEのカバーは、新潟のニット産地で丁寧に編まれたもの。ざっくりとした編み柄に温かみがあり、手触りも柔らかい。無機質なステンレスと、柔らかなニットの素材感が合わさることで、視覚的にもぬくもりを感じる落ち着いた雰囲気をつくりだしてくれます。 車中泊のプライベートな空間を、さりげなく自分らしく演出してくれる。そんな道具としての魅力も持ち合わせています。 車中泊やアウトドアに限らず、湯たんぽは様々な場面で頼りになります。災害時や停電時、お湯さえ沸かせば、電気や燃料に頼ることなく温もりを得られる。時代が変化しても、暮らしに寄り添う道具としての本質は変わりません。現代のライフスタイルに、昔ながらの知恵が再びフィットしているのだと感じます。 実際に使ってみたい方へ、FD STYLEの湯たんぽは オンラインストア でもご紹介しています。

鉄フライパンはどれも同じではない

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鉄がフライパンに向いている理由 鉄の大きな特徴は「熱をしっかり蓄える」ことです。表面が十分に温まったフライパンに食材を置けば、「ジュッ!」という音とともに油がはじけ、一瞬で高温が伝わります。食材の表面は香ばしく焼き締められ、旨みを逃がさず閉じ込めることができます。 音や香りも含めて、調理そのものを楽しめる。これが鉄フライパンを使う醍醐味だと思います。 厚みと重さのバランス 「鉄なのに軽い」という表現を最近よく見かけます。確かに板厚を薄くすれば軽くできますが、蓄熱性は下がり、鉄フライパンらしい調理は難しくなります。 一般的な鉄板の厚みは 0.9mm、1.2mm、1.6mm、2.3mm といった規格が多く、厚いほど重く、薄いほど軽いのは当然です。0.9mm なら軽快ですが、ジュッ!という理想的な焼き締めは難しい。2.3mm なら蓄熱性は抜群ですが、毎日使うには重すぎます。IH のようにフライパン自体を直接加熱する調理器具では、薄い鉄板は変形のリスクもあります。 私たちは製品ごとに最適な厚みを選んでいます。20cm のフライパンは軽快さを優先しハンドルを短めに設計。一方で玉子焼き器は 2mm の厚みを持たせ、ハンドルを長くして安定感を重視しました。似たサイズでも、厚みと形状のバランスによってまったく違う性格の道具になります。 また重さを補うために、ハンドルは単純な丸棒ではなく角丸の四角断面にしました。竹材を用いることで握りやすく、重さを感じにくい工夫もデザインの重要な点です。トータルで見て、シンプルで嫌味のない「普通」のフライパンに仕上げること。実はそこに最もこだわっています。 加工方法の選択 鉄フライパンといっても製法はひとつではありません。鋳鉄は厚みがあり蓄熱性に優れますが、重さが負担になります。プレス加工や鍛造は強度が出やすい反面、歪みや形状の自由度に限界があります。 私たちが採用したのは「スピン加工」。鉄板(SPCC材)を回転させながらローラーで成形する方法です。均一で歪みの少ない皿形状が得られるため、広い平底と立ち上がりを持つフライパンに適しています。 さらに独自の「OXYNIT加工」を施しました。窒化処理で鉄を硬化させ、その後に酸化被膜を発生させることで耐食性を高めています。鉄の良さをそのままに、日常の手入れを軽...

働き方と「質」を考える

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私が会社員として働いたのは5年ほどで、その後はフリーランスとして活動してきました。会社員時代もフリーランスになってからも、共通して思っていたのは「良いデザインの商品は生活を豊かにする」ということです。だからこそデザインは社会的に必要だと信じてきました。 ただ、新潟という環境ではデザインを評価してくれるユーザーの声に直接触れる機会は多くありません。むしろ現場で強く感じたのは、製造する人の負担を減らすことでした。 これは必ずしも大掛かりな工夫を意味しません。加工方法に合わせて、ほんの少し形状や構造を変更するだけで負担が減ることがあります。逆に、製造する人が「ほんの少しだから」と勝手に判断して形状を変えてしまうと、全体のバランスが崩れてしまうこともあります。そこで重要なのは、信頼関係を築いて適正な相談を受けられる環境をつくることです。その関係性が整えば、製造の現場にとっても、デザインの品質にとっても、良い結果につながるのだと感じました。 よく聞く話に「数をこなさないと上達しない」というものがあります。もう一つ、「安物の仕事をしている職人に予算を増やしても良い仕上がりは期待できないが、高級品を扱う職人に予算がなくても頼めば仕上がりは良い」という言葉もあります。これは作業の「習慣」と、その習慣の「質」の違いを示していると思います。 仕事の内容と金額は必ずしも比例しません。特にクリエイティブワークはそうです。もちろん予算が少なければ投下できる時間は限られます。しかし仕上がりを決めるのは、それだけではなく、関係者の熱量や相性による部分も大きいと感じています。 フリーランスとして働き方を自分で選べるようになってから、さまざまなやり方を試してきました。振り返ってみると「良かったこと」も「そうでなかったこと」も、実際には「51対49」くらいの差にすぎないと思います。毎日の繰り返しがやがて大きな差になるのだろうし、考え方次第では反対の結果に導くことも可能なのではないかと感じています。 働き方や仕事の質には、決まった答えはありません。小さな選択と調整の積み重ねが、最終的に自分にとっての納得につながります。そしてその根底には、製造する人や関係者との信頼関係が欠かせないのだと実感しています。 若い世代への示唆 これから社会に出る方や働き方を模索している方に伝え...