鉄フライパンはどれも同じではない

鉄がフライパンに向いている理由

鉄の大きな特徴は「熱をしっかり蓄える」ことです。表面が十分に温まったフライパンに食材を置けば、「ジュッ!」という音とともに油がはじけ、一瞬で高温が伝わります。食材の表面は香ばしく焼き締められ、旨みを逃がさず閉じ込めることができます。

音や香りも含めて、調理そのものを楽しめる。これが鉄フライパンを使う醍醐味だと思います。

厚みと重さのバランス

「鉄なのに軽い」という表現を最近よく見かけます。確かに板厚を薄くすれば軽くできますが、蓄熱性は下がり、鉄フライパンらしい調理は難しくなります。

一般的な鉄板の厚みは 0.9mm、1.2mm、1.6mm、2.3mm といった規格が多く、厚いほど重く、薄いほど軽いのは当然です。0.9mm なら軽快ですが、ジュッ!という理想的な焼き締めは難しい。2.3mm なら蓄熱性は抜群ですが、毎日使うには重すぎます。IH のようにフライパン自体を直接加熱する調理器具では、薄い鉄板は変形のリスクもあります。

私たちは製品ごとに最適な厚みを選んでいます。20cm のフライパンは軽快さを優先しハンドルを短めに設計。一方で玉子焼き器は 2mm の厚みを持たせ、ハンドルを長くして安定感を重視しました。似たサイズでも、厚みと形状のバランスによってまったく違う性格の道具になります。

また重さを補うために、ハンドルは単純な丸棒ではなく角丸の四角断面にしました。竹材を用いることで握りやすく、重さを感じにくい工夫もデザインの重要な点です。トータルで見て、シンプルで嫌味のない「普通」のフライパンに仕上げること。実はそこに最もこだわっています。

加工方法の選択

鉄フライパンといっても製法はひとつではありません。鋳鉄は厚みがあり蓄熱性に優れますが、重さが負担になります。プレス加工や鍛造は強度が出やすい反面、歪みや形状の自由度に限界があります。

私たちが採用したのは「スピン加工」。鉄板(SPCC材)を回転させながらローラーで成形する方法です。均一で歪みの少ない皿形状が得られるため、広い平底と立ち上がりを持つフライパンに適しています。

さらに独自の「OXYNIT加工」を施しました。窒化処理で鉄を硬化させ、その後に酸化被膜を発生させることで耐食性を高めています。鉄の良さをそのままに、日常の手入れを軽くするための工夫です。

細部のディテール

持ち手には竹を採用し、四角断面にすることで調理中の安定感と盛り付けのしやすさを実現しました。金具には熱を伝えにくいステンレスを用いており、鉄フライパンでは珍しい仕様です。さらに専用のフックを付属し、壁掛けで収納できるようにしました。

こうした細部の工夫は一見目立ちませんが、毎日の使い心地に直結します。

すべては「美味しい」のために

鉄フライパンは長い歴史を持つ道具です。だからこそ「どれも同じ」と思われがちですが、実際には素材の厚み、加工方法、表面処理、ハンドルの形状まで、すべてに理由があります。

その理由はただひとつ。「美味しい料理のため」です。鉄の特性を最大限に活かしながら、調理する人が楽しめるように。燕三条の技術者たちと積み重ねてきた経験を、このフライパンに込めています。

道具の違いは目に見えにくいものですが、実際に使っていただければ、その違いを感じてもらえると思います。

→ FD STYLE 鉄フライパンの詳細はこちらからご覧いただけます。

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