3Dプリンターで“あったらいいな”を形にしてみる

私が社会人になった1980年代、試作モデルをつくるには「モデル屋さん」に依頼するのが当たり前でした。木や樹脂を切削して精巧なモデルを作ってくれる職人で、市内には三軒ほどありました。私にとって彼らは単なる外注先ではなく、困っている企業とデザイナーをつないでくれる存在でもありました。図面が描けない、デザインができないと悩む企業を紹介してくれることもあり、仕事を広げる上で重要な関係でした。 今ではそうしたモデル屋さんは姿を消し、机の上に3Dプリンターがあります。外注に頼まず、自分でデータを修正し、その日のうちに形を確認できる。便利な時代になったと感じる一方で、「人を介して広がる関係性」が薄れてしまったことは少し寂しく思います。

ピーラーが替刃式でない理由
最近私は、ピーラーの刃を交換するための補助具を3Dプリンターで試作しました。ピーラーは安価な道具で、野菜の皮を剥くだけですから、多少切れ味が落ちても我慢して使う人が多い。「そのうち買い換えればいい」と考えるのが一般的です。 実際には替刃式を取り入れている製品もありますが、替刃が入手しにくかったり、刃自体が高価だったりして現実的とは言いにくい状況です。

それでも替刃を望む声
売り場で耳にするのは「刃を簡単に交換できたらいいのに」というお客様の声です。特にプレゼントや記念品で手に入れたものなら、長く使いたいと思うのは自然なことです。そこで私は、髭剃りの替刃をヒントに、ピーラーでも安全に刃を交換できないかと考えました。

実際に作った補助具
3Dプリンターで作ったのは二種類です。 刃に直接触れないためのカバー 古い刃を取り外し、本体を少し広げるための道具 どちらもシンプルな形ですが、実際に試すと「カバーはどこまで覆えば安心か」「どの厚みなら力をかけやすいか」といった検討点が次々に出てきます。
便利さと悩みの両面 3Dプリンターは夢のように気軽に作れる道具ですが、作れば作るほど迷いも増えます。修正して何度でも出力できる反面、時間やコストは積み重なり、答えを探すほどに悩みは深まる。これはデザインに限らず、ものづくり全般に共通することだと思います。

FD STYLE とのつながり
私が展開する FD STYLE は、大きな規模を目指すものではありません。産地の技術を活用した確かな製品ですが、生産量は多くないため、価格は一般の道具より高めに感じられるかもしれません。しかしそれは単なる「プレミアム」ではなく、考え方としてのデザインの価値です。 見た目のスタイリッシュさだけでなく、製造の背景やつくり手の関係性を含めて「かっこいい」と思えるものを届けたい。その背景は製品を見ただけでは伝わりにくいので、こうした文章で共有することが大切だと感じています。

まとめ
今回の補助具は商品化を前提にしたものではありません。小さな疑問を形にしてみる過程で、道具を長く使うことの意味や、ものづくりの悩みと向き合う姿勢を改めて考えさせられました。 便利さの裏にある迷いや課題も含めて、それがデザインという営みだと思います。そして、その価値観を共有することが、FD STYLE のものづくりに興味を持っていただくきっかけになればと思っています。

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