海外評価が後押ししたブランドの必然
私が黒いキッチンツールのシリーズに取り組んだのは、2008年のことでした。新潟県の「百年物語」というプログラムに参加し、新しいアイテムを加えながらキッチンツールを「黒」に仕上げる試みを始めました。百年物語のテーマは「男性向け」とされていましたが、私自身はそこに強い関心を持ったわけではありません。むしろ当時、燕のメーカーが黒と朱に塗装した洋食器を発表し、ニューヨークのMOMAのコレクションに選ばれたことが大きなきっかけでした。
「ステンレスに塗装する」という発想は珍しく、果たして実用に耐えるのかどうか、自分でも試してみたいと思いました。複数の塗装工場を回り、「艶消しの黒」をテーマにいくつかの加工を試しました。最終的に選んだのは、最もコストのかかるフッ素加工でした。 理由は明快で、耐久性に優れていたからです。もし塗装が剥がれて食材に混じったら、それ自体がNGです。実際に日常の食卓で使う道具だからこそ、安全でなければ意味がありません。試作の中で、フッ素加工が最も剥離や摩耗に強く、安心して使えると判断しました。
Wallpaper誌への掲載
2009年、完成した黒いキッチンツールをドイツ・フランクフルトの展示会で発表しました。すると、英国のデザイン誌 Wallpaper がこのシリーズを紙面に取り上げてくれました。私にとっては思いがけない出来事でした。 さらに翌年、Wallpaper Design Awards 2010 にノミネートされ、最終的に受賞することになります。驚いたのは、自分から応募したわけではなかったことです。ある日突然、ロンドンから雑誌と書類が送られてきて、初めて事態を知りました。 誌面を開くと、AlessiやBoffiといった世界的ブランド、そして当時はまだ無名だったnendoの作品と並んで掲載されていました。地方の小さな工場と協働してつくった日常の道具が、国際的なブランドやデザイナーと同じ紙面に紹介されている――その事実に強い衝撃を受けました。
海外と国内での評価の違い
Wallpaper誌に掲載されたことで、海外からの問い合わせや反応が少しずつ増えていきました。後にはBottega Venetaに紹介されたり、NHKの海外向け放送で取り上げてもらうこともありました。2017年以降は実際にパリや香港の展示会に参加し、直接評価を得られるようになっていきます。 一方で、国内の評価は少し違いました。2000年代後半の日本では「手仕事」「職人」「素朴な道具」が注目されていました。FD STYLEの黒いキッチンツールは、そうした流れからすれば異質でした。産地の工場と協働して現代的に仕上げたデザインは、国内ではすぐに歓迎されるものではなかったのです。 しかし、海外では「調理のための道具」として純粋に機能や美しさを評価してもらえることが多く、それが私には大きな励みになりました。
流通の壁とデザイナーの役割
展示会で必ず聞かれるのが、「この商品が欲しいときはどこに問い合わせればいいのか?」という質問でした。FD STYLEは私たちのブランドですが、私はメーカーでも問屋でもありません。 当時の燕三条は問屋の影響力が強く、工場が直接流通に手を出すことを好まない雰囲気がありました。だからこそ、工場から「この商品はうちのブランドです」と発信するのは難しい状況でした。 そこで私は考えました。ならば、デザイナーがその役割を担えばよいのではないか、と。一般的にデザイナーは「ふんわりした存在」に見られがちですが、工場でも問屋でもない立場だからこそ、伝えることができる。そうして始めたのがFD STYLEというブランドでした。
学びと気づき
今振り返ると、Wallpaper誌の受賞は「外から評価が返ってきた」最初の大きな経験でした。 ・デザインは地方からでも世界に届くこと ・国内と海外では評価されるポイントが異なること ・工場や問屋が動けないなら、デザイナーが役割を担うべきこと これらを実感したことが、FD STYLEを立ち上げる必然につながりました。
読者への示唆
地方で活動していると、国内の評価に囚われすぎてしまうことがあります。しかし、視点を変えれば海外から評価される可能性もある。その評価が、自分の存在や活動を次の段階へと押し上げてくれることもあるのだと思います。
👉 [FD STYLE 商品ページ]
「ステンレスに塗装する」という発想は珍しく、果たして実用に耐えるのかどうか、自分でも試してみたいと思いました。複数の塗装工場を回り、「艶消しの黒」をテーマにいくつかの加工を試しました。最終的に選んだのは、最もコストのかかるフッ素加工でした。 理由は明快で、耐久性に優れていたからです。もし塗装が剥がれて食材に混じったら、それ自体がNGです。実際に日常の食卓で使う道具だからこそ、安全でなければ意味がありません。試作の中で、フッ素加工が最も剥離や摩耗に強く、安心して使えると判断しました。
Wallpaper誌への掲載
2009年、完成した黒いキッチンツールをドイツ・フランクフルトの展示会で発表しました。すると、英国のデザイン誌 Wallpaper がこのシリーズを紙面に取り上げてくれました。私にとっては思いがけない出来事でした。 さらに翌年、Wallpaper Design Awards 2010 にノミネートされ、最終的に受賞することになります。驚いたのは、自分から応募したわけではなかったことです。ある日突然、ロンドンから雑誌と書類が送られてきて、初めて事態を知りました。 誌面を開くと、AlessiやBoffiといった世界的ブランド、そして当時はまだ無名だったnendoの作品と並んで掲載されていました。地方の小さな工場と協働してつくった日常の道具が、国際的なブランドやデザイナーと同じ紙面に紹介されている――その事実に強い衝撃を受けました。
海外と国内での評価の違い
Wallpaper誌に掲載されたことで、海外からの問い合わせや反応が少しずつ増えていきました。後にはBottega Venetaに紹介されたり、NHKの海外向け放送で取り上げてもらうこともありました。2017年以降は実際にパリや香港の展示会に参加し、直接評価を得られるようになっていきます。 一方で、国内の評価は少し違いました。2000年代後半の日本では「手仕事」「職人」「素朴な道具」が注目されていました。FD STYLEの黒いキッチンツールは、そうした流れからすれば異質でした。産地の工場と協働して現代的に仕上げたデザインは、国内ではすぐに歓迎されるものではなかったのです。 しかし、海外では「調理のための道具」として純粋に機能や美しさを評価してもらえることが多く、それが私には大きな励みになりました。
流通の壁とデザイナーの役割
展示会で必ず聞かれるのが、「この商品が欲しいときはどこに問い合わせればいいのか?」という質問でした。FD STYLEは私たちのブランドですが、私はメーカーでも問屋でもありません。 当時の燕三条は問屋の影響力が強く、工場が直接流通に手を出すことを好まない雰囲気がありました。だからこそ、工場から「この商品はうちのブランドです」と発信するのは難しい状況でした。 そこで私は考えました。ならば、デザイナーがその役割を担えばよいのではないか、と。一般的にデザイナーは「ふんわりした存在」に見られがちですが、工場でも問屋でもない立場だからこそ、伝えることができる。そうして始めたのがFD STYLEというブランドでした。
学びと気づき
今振り返ると、Wallpaper誌の受賞は「外から評価が返ってきた」最初の大きな経験でした。 ・デザインは地方からでも世界に届くこと ・国内と海外では評価されるポイントが異なること ・工場や問屋が動けないなら、デザイナーが役割を担うべきこと これらを実感したことが、FD STYLEを立ち上げる必然につながりました。
読者への示唆
地方で活動していると、国内の評価に囚われすぎてしまうことがあります。しかし、視点を変えれば海外から評価される可能性もある。その評価が、自分の存在や活動を次の段階へと押し上げてくれることもあるのだと思います。
👉 [FD STYLE 商品ページ]
コメント
コメントを投稿